猫だより

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2015年8月4日

■ユズのこと

前の日までほぼ毎日、朝の5時か6時に「おなかがすいたでちゅ。さっさとカリカリ出して!」と私を起こしにきていたユズが、その日は早朝から吐いていた。めずらしく食欲もなく、朝も、昼も食べなかった。何回か吐いた。

猫が吐くのはわりとよくあることだが、今回は調子悪そうだな。でも夕ごはんにユズの大好きな缶詰を出してやれば、それを食べて調子が戻るだろう。そう思っていた。

夕方、(比較的)高級な缶詰を開けて出してやった。ところがユズはまったく食べないのだ。

心配になって動物病院に電話したら、その日のうちの予約がとれたので、と一緒にユズを車に乗せて病院に連れて行った。

先生の念入りな触診を受ける。腸が詰まっている様子もなく、脱水もない、熱もない、ということで、注射を3本(吐き気止め、抗生物質、胃腸の薬か何か)打ってもらって帰宅。

だがユズはやっぱり食べない。翌日の夕方また病院に行って、栄養注射と、胃腸の薬か何かの注射を打ってもらった。

ユズになんとか食べてもらおうと、まぐろの刺身や、ささみ、おかか、チーズ、高級な缶詰などを差し出しては拒絶され続けたが、いろいろ試したところ、ユズはようやくテリーヌの缶詰に反応を示した。

テリーヌのおつゆの部分をなめているようだったので、きっと液体に近いもののほうが食べやすいのだろうと思い、夫と一緒にお店に行って、猫用のスープとか、ペーストの類をいろいろと買い込み(それまで知らなかったけどけっこうあるのだ)、ユズに差し出したところ、いくつかの種類はそれなりに食べられるようだった。

よし、これでちょっとずつ調子を取り戻すだろう、そしたらだんだん固形のものも食べられるようになるだろう、と思った。

だが3日もすると、ユズはまた食べなくなってしまった。

病院に連れて行って、今度は血液検査をしてもらった。

腎不全だった。

腎臓に関する数値が計測可能範囲外の高値であると説明された。腎臓はだめになると回復しないが、それでもいくつかの選択肢(入院して集中治療、通院して注射、通院後自宅で注射)があるという。先生は、数値は非常に悪いものの、猫の様子を見る限り、治療をあきらめる段階にはないと思う、と言ってくれた。しかし我々夫婦は、数日、あるいは数週間多く生き延びる可能性に賭けて、ユズに、ユズの嫌がる治療を強いるのはやめようと思った。

ユズを連れて家に帰る。あいかわらず食べないで、ただ寝ているユズを見ていると、今にも死んでしまいそうな気がして泣けてきた。

ユズは私たちがユズを見ているのに気づくと、緊張で体を硬くし、その場からのろのろ離れようとする。飼い主のことも忘れたみたいだと思った。でも無理もない。ユズをつかまえて大嫌いな病院に連れて行ったり、なんとかエサを食べさせようとユズに無理強いをしたものな。

ユズは水を大量に飲んで、たくさんおしっこをしていた。かろうじて歩けるものの、後ろ足に力が入らず、たびたびよろけてしまう。

最初に具合が悪くなってから一週間たっていた。ユズはすっかり痩せてしまい、多くの時間を、水飲み場の近くで寝転がって過ごしていた。寝たままおしっこをして、しっぽと後ろ足がびしょびしょになったが、それに気づいてもいないようだった。

おしっこは臭いも色もほとんどなくて、まるで水みたいだ。腎臓が機能していないんだな、と思った。

目を覚ましているとき、ユズは何回かあどけない目で私を見た。飼い主のことを思い出したのだろうと思った。

翌日ユズは血を吐いた。トイレに入ったが、うまくいかなくて、トイレからよたよた出てきた直後のことだった。最初はオレンジっぽい色の液体、続けて出たのはもっと赤っぽいちょっとドロッとした液体で、夫も私も言葉を失った。

いよいよダメだと思い、涙にくれていた、一週間+1日目の夕方。

ユズが、ふと歩き出したかと思うと、50cmくらいの高さのねこハウスの屋根に飛び乗り、そこからなんと、キッチンカウンターに飛び乗った。これには驚いた。後ろ足に力が入らなくてずり落ちそうになる。あわてて後ろから押さえた。

ユズのこの行動はごはんを探しているのに違いない。そう思って、急いでテリーヌの缶詰を開けると、ユズはおつゆの部分をペロペロとなめた。

ああ、ユズは最後にごはんをちょっと食べることができた。よかった、と思った。

勝手口ぎわで次の日の朝を迎えるユズと、ユズに寄り添うマーボ

ところがユズは翌日以降も、自分から、何か食べたいという意思表示をした。そのたびにテリーヌの缶詰を開け、主におつゆ部分を与える。

テリーヌ本体も食べてもらいたかったが、なかなか受け付けないようだ。無理させると吐いてしまうので、ユズの様子を見ながら、食べてくれそうなものを、ちょっとずつ出した。(残ったテリーヌ本体はマーボやチャッピーが食べるが、それでも余るので捨てている。)

3日後、ユズは私と夫を見て「ァ」と鳴いた。声がほとんど出ないのだ。でもさらに2日ほどすると、はっきり「アーン」と鳴くようになった。歩き方もだいぶしっかりしてきた。

その日の夕方、ユズは自分から猫庭に出た。

猫庭からの景色を眺めるユズ

夫に報告すると、彼は「ユズはだんだん良くなっているみたいだな」と言った。「そうだね」と私は答えたが、ユズは景色にお別れを言っているのかもしれない、と思って切なくなった。

自分で食べているとはいえ、量はほんのちょっとで、あいかわらずガリガリに痩せているのだ。血はあまり混ざらなくなったものの毎日1〜2回吐いている。なんといっても腎臓が悪いのだ。私はユズの状態が今にも急変するのではないかと冷や冷やしていた。

だがユズは、次の日も、その次の日も、また次の日も、そして今日も、普通に猫庭に出て、朝のひとときを過ごしていた。体調は、一進一退といったところだろうか。

ユズは生命力があるな、やっぱり偉い猫だな、と夫と話し合った。この一週間、ユズには本当に感心させられている。

最初に具合が悪くなってから二週間ちょっと。この先どうなるかわからないが、できるだけ、ユズの好きなようにさせたいと思う。


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